□mailto:me 第二章

 しかし、家に帰っても京子はこのことが何となくひっかかるようで、夜、なかなか眠ることができなかった。
 そして夜中の12時が過ぎた頃、ふとベッドから起き上がり、あのメールに返事を書くことを思い立った。
『誰ですか?こんないたずらをするのは。と言っても、自分宛てに出したら、このメールも自分に返ってくるのよね・・・』
 だが、そうはならなかった。そのメールには、きちんと返事が書かれて返信メールがあったのだ!
『突然ごめんなさい。いきなりこんなことを言っても、信じられるはずもないよね。そうねえ、どうすれば信じてもらえる?』
 こんな返事が着たものだから、京子がまた驚かないはずはなかった。
「えっ、どういうこと?私宛てにメールしたのよね?なのに返事が書かれている?もう、何がなんだかわけがわかんない!また明日学校で、いたずらした犯人を捜さなくちゃいけないの?それよりまた直子に相談してみようかな?」
 その返事のことで京子は、しばらく頭が混乱していて、なかなか眠ることができなかった。

 翌日、昨日のことがあって、京子は高校が始まって初めて携帯を持って行くのを忘れなかった。それで母の京香は、
「やっと自分のことは自分でできるようになったのね。明日からもそうするようにしなさい」
 と、ちょっとホッとしたように彼女に話しかけた。
 だが京子はそんなことに真剣に構っていられなかった。
「はいはい、わかった、わかった。でもそれどころじゃないの」
「どうしたの?何かあったの?」
「学校に遅れるから。行ってきまーす」
 そう言って、母にはメールのことは一切告げず、いつものように直子が待つ駅へと向かった。そこへ行く道すがら、これはもしかしたら何か特別なことがこの先起こるんじゃないか?直子に話したら何て顔するだろう?と、昨日の頭の混乱とはうってかわって、少しウキウキした気分にもなっていた。
 そしてこの朝も直子と一緒に学校へ向かう電車に乗ったのだった。
「ねえねえ、直子。昨日の晩、あのメールに返事書いてみたのよ」
「ばかねえ。そんなことしたって、自分宛てにそのメールが着ただけでしょう?」
「それが違うのよ」
「まさか返事があったなんて言わないでしょうね?」
「当たり!」
「冗談でしょう?・・・。そうか、昨日のいたずらメールもあなたが仕組んだことだったのね?そうね、そういうことだったのね。これで謎が解けた。京子、私に昨日のように恥をかかせたかったのね」
 直子が予想外のことを言ったので、京子は少したじろいだ。
「何言ってるのよ。私は何にも知らないわ。じゃあ、とりあえずこの返事を読んでみて」
 そう言って直子にメールを見せると、彼女は、
「そうねえ。それじゃあ、そのメールにあるように、そのメールが未来から着ているという証拠を見せてもらえるかな?例えば、これから起こることを言い当てるとか」
 と言ったのだが、京子にも本当にそのメールが未来から着ているという確信がなかったので、直子の言う通り、未来に起こることが言い当てられるか自信がなかったが、もう一度返事を書いてみるしかなかった。
「わかったわ。このメールはいたずらかもしれないけど、とりあえずそう書いてみる」
 そうして京子は再び返事を書いて送った。
『こんにちは。2014年の私へ。本当にあなたが未来からメールを送っているのなら、2004年に起こることを言い当ててくれるかしら?』
 するとその晩、思いもよらない返事があった。
『そうねえ。これならきっとあなたも信じてくれると思うわ。ええとね、サッカーくじのtotoなら知ってるでしょう?あれなら100円で買えて当たれば1億!今度の勝敗表を書くからその通りに買ってみて』
 これが本当なら、とんでもないことになるじゃない!と思いつつも、まだ当選するまで京子には信じられなかった。そしてそのことはもちろん直子にも話したが、彼女もとても信じられない様子だった。
「自信たっぷりに書いているけど、外れたらもうそのメールのことは忘れましょうね。私も昨日は大人げなく怒ったりしてごめんなさい。いたずらでもいいのよ。私はもう気にしていないから」
 だが、もし外れたら、私は疑われたまま、それでは困る!と京子も信じるべきか、そんなこと信じられるはずもない、というパラドックス的な気持ちで、じっとしていられない心境だった。

 そしてついにサッカーの試合結果がわかり、京子が言われるがまま買ったくじの当選が明らかになった。
 それがわかると、京子はいてもたってもいられなくなり、すぐに直子に電話をしたのだった。
「直子、聞いて、聞いて!toto、本当に当選したのよ!本当に1億円が当たったのよ!もうメールのことなんか本当でも嘘でもどうでもよくなっちゃった」
「私は絶対外れると思っていたわ。偶然でも当選確率なんて絶対あり得ない数字だから、あのメール、信じるしかないのね。それより、そのメールに返事してなにか言われた?」
「あっ、まだだった。これから返事書いてみるね」
 そう言って電話を切ったあと、京子はまだウキウキして携帯を取り出した。
『2014年の私へ。toto当たったの!本当に未来からメールをしていたのね!これからもいろいろ未来のこと、教えてちょうだいね。これからもよろしく!』
 1億円が当たった、何を買おうかなあ?マクドナルドでおなかいっぱいになるまでハンバーガーを食べて、もうすぐ夏だからラルフローレンのポロシャツを買って・・・、ああ、今まで普通の家庭で育ったから贅沢なことなんて全然思い付かないや、と期待が膨らみ過ぎて逆に落ち込んでしまう京子だった。
 しかし喜んでいられるのは今のうちだけだった。なぜかと言うとそれはまたしても未来の京子からの返事が原因だった。
『2004年の京子へ。私の言った通り当選したでしょう?でもそうも喜んでいられないの。私の開発したシステムを狙って、ある組織から命を狙われているの。そう、殺されるかもしれないの・・・。だからあなたにはその1億円で私のことを助けて欲しいの。私、つまりあなたのことよ』
 未来の私が殺される?どういうこと、何か悪いことでもしたの?いやこのタイムトラベルの技術を狙っているのね、そう思うとどうしたらいいかもう一度未来の自分に宛ててメールを打った。
『どうしたらいいの?わたしは何をしたらいいの?何でも言ってね。あなたのためなら何だってするから。自分のことだから当然だけど・・・』
『ありがとう。でも私にもその組織のことはあまりわからないの。そこで写メールで組織の人間を写したいところだけど、なかなか撮れる状況じゃないからもう少し待って』
 そうして名探偵京子の活動が開始されるのであった。

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