□mailto:me 第一章
「あれ?どこに置いたかな?携帯?」
京子は学校へ行く時になっていつも携帯をなくしてしまうのに、前もって用意しておくのを面倒がるので、いつも遅刻しそうになってしまう。
「あっ、あったあった。そんなことより早くしないと電車に乗り遅れちゃう!」
京子の一日は、毎朝こんな感じで始まる。
「もう、あんた。そんなんで学校の勉強なんて本当にできるの?」
母の京香も毎朝同じことばかり注意する。
「当たり前でしょう!もうすぐ高校へ入学して最初の試験があるから、楽しみにしておいてよ!」
「はいはい、楽しみにしていますよ」
「それじゃあ、行ってきまーす!」
「はいはい、行ってらっしゃい」
そう言って家を出たばかりなのに、すぐ忘れ物に気づく。
「あっ!定期入れ、忘れてる!」
もう一度家に戻ると、京香が玄関で待っている。
「これでしょう?」
「そうそう、それそれ!」
そう言って京子は母から定期入れを受け取った。
そうして今度こそ学校へ向かう。
まず徒歩で近くの駅へ行くといつも、中学が一緒だった直子が待っている。
「おっそーい!何してるのよ、放っといて行くところだったのよ」
「ごっめーん!明日は遅れないから!」
もちろんこれもいつものことだ。
そして数分も立たないうちに、乗り込んだ電車は高校へ向けて出発する。
「ぎりぎりセーフ!」
二人が空いた席に座ると最初にすることは、まず携帯のメールをチェックすることだった。そして二人は徐にカバンから携帯を取り出した。
「何か着てるかな?」
直子は期待まじりに携帯を見たが、その期待は裏切られた。
「残念、私のところには何にも着てないわ。京子はどう?」
そう聞くと、京子もすぐに携帯に目をやり、
「ちょっと待って、待って」
と慌てたように返事した。
「あっ、何か着てる!誰からだろう?」
ワクワクしながら差出人を見てみると、ちょっと、いや全然、普通ではないメールアドレスだった。
「kyouko@******.**.jp、これ、私のメールアドレスじゃない?」
すると横から直子がわって入った。
「えっ!?どういうこと?」
「私にもわかんないよ。差出人が私のメールが、私のところに着ているの。自分自身に宛ててメールしたなら、こういうこともあり得るけど、そんな覚え、私、全然ないし・・・」
京子が驚いていると、やはり直子もそのことを不審に思ったのだった。
「とりあえず、内容を見てみようよ」
「わかったわ。ええとね、読んでみるよ」
『こんにちは、私は2014年の京子です。そう、10年未来のあなた。今私はT研究所でタイムトラベルの研究をしています。やっとメールでだけそれに成功しました。まだ誰にも話していません、あなたを除いては』
「どういうこと?」
「そんなこと、私にもわかんないよ・・・」
二人はお互いに顔を見つめあい、目を白黒させていた。
「冗談・・・、だよね?」
「当たり前でしょう。きっといたずらよ。うん。多分クラスの誰かよ。学校へ行ったら犯人を探さなくちゃ」
「そうね。そうしましょ」
そう言うと二人は、目的の駅に着くまで、「誰かしらね」などと話したりしているうちに、電車は高校の近くの駅へと着いた。
「学校へ行ったら・・・、ね?」
「うん」
駅からまた徒歩で学校へ向かい、二人が学校へ着くと、ちょうど始業のチャイムが鳴った。
「メールのことは休み時間に聞きましょう。誰が犯人か楽しみね!」
直子は犯人を捜すことにかなり興味津々だった。
そして一時間目の授業が始まったが、二人はそのことで少し気が気でなかった。
『キーン、コーン、カーン、コーン』
ようやく一時間目が終了し、休み時間になった。
すると京子より先に直子は、心当たりのある男子生徒に京子の携帯を持ち出してあのことを問いただした。
「孝志?あんたでしょう?京子に変なメールよこしたのは?」
しかし孝志は全く意味を理解できない様子で反論した。
「えっ?何のことだよ?変なメールって?」
「しらばっくれないの!」
二人が大声で言いあっているうちに、周りに人が集まり出した。
「どうしたんだよ?」
「なになに?何があったんだ?」
「それがさ、なんか言いがかりをつけてくるんだよ」
「どんな?」
「変なメールだとかなんとかってさ」
「へえー、いたずらメールか?そんなのよくあることじゃないか」
ありきたりのこと、そういう意見が当たり前だった。
「それが普通のいたずらじゃないのよ、ほら」
直子が京子の携帯を皆の顔の前に差し出したとき、後からやってきた健司はそのメールに興味を示した。
「どれどれ、俺にもそれ見せてくれよ?」
だが直子は少し興奮していたのか、健司には目もくれずに誰彼かまわずそのメールのことを問いただした。京子は、そんなに言ってもわかんないよ、と思って直子の肩に手をやり、止めようとしたが、直子はさらに言葉を続けた。
「このいたずら、あんたなの?それともあんた?」
「知らないよ」
「俺も知らない」
しかし、どうも犯人は見つかりそうもなかった。
「本当に誰も知らないの?自分自身からメールが届くなんて、絶対いたずらよね?」
そこに孝志がこんな意見を言い出した。
「そんな器用なことができるのは、このクラスでは、敦ぐらいのもんだぜ。何しろiアプリのプログラミングコンテストで入賞経験があるぐらいだからな」
それを聞いた京子と直子は顔を見合わせ、謎が解けたようにニッコリと微笑んだ。
「あーつし君?あなたなのね?」
しかし敦は何のことだかさっぱりわからない様子だった。
「俺じゃないよ。京子のメールアドレスなんて、俺知らないし。きっとみんなが言うようによくあるいたずらだろ」
そう言われると二人には、犯人が誰なのか、それ以上調べることができなかった。
「そうよね。単なるいたずらよね。犯人もわからないことだし、もうこんなこと、どうでもいいじゃない!」
直子は開き直ったように、京子にメールのことは忘れるように仕向けた。
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